在所探訪

庄内の「食」と庄内産「ワイン」の融合

2024年12月19日

ピノ•コッリーナファームガーデン&ワイナリー松ヶ岡(鶴岡市)

2023広島サミットで各国首脳に、鶴岡市のエルサンワイナリー松ヶ岡株式会社でつくられているワインが振る舞われた。
一方、2014年に「ユネスコ食文化創造都市」として世界に認められた庄内の食材を使い、松ヶ岡産ワインに相応しい料理を提供するレストラン「ピノ・コッリーナファームガーデン&ワイナリー松ヶ岡」も2020年秋にオープン。遠くに月山を望み、庄内の「食」、庄内産「ワイン」、それに広々とした農園による新空間が、鶴岡・松ヶ岡に展開されている。
山形県はブドウの生産量全国3位、ワインの生産量では4位に位置し、県内には置賜8、最上・村山9、庄内3のワイナリーがある。月山ワインや高畠ワインは生産量も多く人気が高いが、ここでは一躍世界的なワインに到達したエルサンワイナリーの足跡を辿る。

ノ・コッリーナファームガーデン&ワイナリー松ヶ岡 エントランス

北イタリア「ランゲの丘」を庄内に
イタリアには50を超える世界遺産があり、その中のバローロはブドウ畑の景観とワイン文化史で世界遺産になった地だ。2014年鶴岡市が日本初の「ユネスコ食文化創造都市」に認定されたのを機に、北イタリアのピエモンテ州バローロ(スイスとの国境)を訪れたエルサンワイナリー松ヶ岡株式会社の早坂剛社長は、アルプスを背景に丘陵地に延々と広がるブドウ畑と点在するワイナリーの光景に深い感銘を受けた。
鶴岡市は翌年、ピエモンテ州に隣接するミラノで開催された食をテーマにした「2015ミラノ万博」に出展した。早坂氏も同行し、1400年の歴史がある出羽三山の精進料理や奥田シェフの実演などで、鶴岡の食文化をイタリアの人たちに紹介するという貴重な体験をした。と同時に、何度も訪れたイタリア屈指のワイン産地バローロの「ランゲの丘」の魅力にとりつかれ、「月山を背景にしたブドウ畑」を作れないだろうか? と考えるようになった。​​

ワイナリーの奥に広がるブドウ畑、背景は月山

北イタリアのランゲの丘、遠くの山並みはアルプス山脈

「松ヶ岡のストーリー」に新たな歴史を刻む
北イタリアのワイン文化と「ランゲの丘」の景観に触れ、“庄内でワインを生産できないだろうか”という夢が膨らみ始めた頃、「サムライゆかりのシルク・日本近代化の原風景に出会うまち鶴岡」をコンセプトにした史跡・松ヶ岡開墾場が、日本遺産の認定を受けることになった。2017年のことで、それがきっかけとなり早坂氏の夢は現実に動き始めた。松ヶ岡開墾場は150年前、月山麓を3,000人の庄内藩士が切り拓き、シルク産業の拠点に創り上げた地。そのストーリーの原風景を今に残すこの地が、ワイナリーという新しい食文化の創造にうってつけの場所だと確信を持ったのである。さらに、思い描いた「月山を背景にしたブドウ畑」が、北イタリアで目にした光景と繋がった。
さっそく休耕地を借り受けブドウの試験栽培が開始された。松ヶ岡の地形は丘陵地のため、稲作には不向きで古くから庄内柿、洋梨、桃などの果物を栽培していた。その緩やかな傾斜は水はけが良く、日中の温かい日差しと夜は月山から吹き下ろす冷たい風の寒暖差がブドウ造りに適しているのではと考えたからでもある。

ブドウ栽培に適した場所かを科学的に検証
多くの農作物は、土壌や気候によってその育成や品質が左右される。ブドウは特に土壌の影響を受けやすい果物で、ワインにした時の味や個性の決め手になる。そこで山形大学農学部に土壌分析を、鶴岡工業高等専門学校には気候、日射量、土壌の状態をセンサーで計測するアグリサーバの開発を、慶応大学先端生命科学研究所にはブドウのメタボローム解析をお願いした。
それらの結果をふまえてブドウの品種と目指すワインの方向性が決まり、2017年から本格的にブドウ栽培を開始。2020年には試験醸造1,500本にこぎつけてワイナリーとして始動し、現在ブドウの木の栽培は10,000本に達している。

庄内の「食」と、庄内産「ワイン」の融合
庄内地域は山間部、平野、日本海という変化に富んだ地形から豊かな食文化を今に伝えている。先人の遺した独自の食文化や食材が「ユネスコ食文化創造都市」として世界に認められ、その食材を使って松ヶ岡産ワインに相応しい料理を提供する場、レストラン「ピノ•コッリーナファームガーデン&ワイナリー松ヶ岡」が2020年秋にオープンした。イタリア語でピノは<松>、コッリーナは<丘>で、ワインと一緒に庄内の旬の食材をこの丘陵地で味わって欲しい、地元を始め多くの観光客の方にも楽しんでいただき、この魅力的なストーリーの地「松ヶ岡」に相応しい産業として、ワイナリーを育てていきたいと早坂氏は考えたのだ。

2023年5月の広島G7サミットでエルサン・ワインが食卓に
それはブドウの定植から7年、醸造開始から5年の快挙だった。各国首脳に振る舞われたのは「鶴岡甲州2021」白と「メルロー2021」赤。世界に通用する本物指向を貫いたエルサンワイナリーの早坂氏と醸造スタッフのこだわりが実を結んだのだ。
レストランのテラス席から広がるブドウ畑、その先には月山が……。かつてシルク産業の拠点として一面桑畑だった丘陵地には現在ブドウ畑が点在し、「松ヶ岡ストーリー」の新たな歴史が動き始めている。

レストランのテラス席から月山が間近に

 

2023年の広島G7サミットに採用されたワイン

エルサンワイナリー松ヶ岡株式会社  早坂 剛 代表取締役社長